学術集会長挨拶

 このたび、第35回日本がん看護学会学術集会を会員、関係者の皆様のご支援とご協力のもと、開催できることを心より感謝申し上げます。

 今回の学術集会のテーマは「ポストゲノム時代のケアを先導する」といたしました。

 我が国のがん看護は、35年の歴史の中で、当初がん告知やターミナルケアの深刻な課題に直面し、現在の緩和ケアや症状マネジメントの研究にまで発展してきました。1990年代は外科療法や化学療法にともなう看護ケア、2000年代には、ホルモン療法や分子標的薬等も含めて多彩な薬物療法に伴うケア、療養に関する意思決定支援、放射線療法中の看護ケアやサバイバーケアなどに取り組んできました。いいかえれば、がんに伴う診断や治療の変遷に応じて、人々が抱える健康上の課題に即応する形で看護ケアの課題も変遷してきたと言っても過言ではありません。

 2018年6月からがんのゲノム解析に保険が適用されるようなり、がんゲノム医療が始まりましたが、治療対応のある遺伝子のバリアントが見つかる患者は限られており、また、遺伝子情報によって100%の予測ができるわけでもありません。患者には選択肢があるがゆえの新たな苦悩が発生しています。遺伝子がわかってしまうことのその人にとっての「意味」が吟味されないまま、現実社会に技術が投入されていることも気になります。過度な期待と落胆・・、新しい医療技術が導入される変革期には混乱が生じやすく、精錬された看護ケアが必要です。

 一方、特定の遺伝子の働きや治療薬への個々人の反応を説明し、薬物の有害事象を回避するなど、ゲノム医療はすでに看護の現場で役に立っています。ゲノムデータをベースに、治療だけでなく予防を含む究極の個別化医療の時代になり、患者ごとに治療を選択するプレシジョン・メディスンの実現も目の前に来ています。さらに生命科学の領域では、Bioinformaticsやビッグデータ解析などの貢献によってポストゲノム時代が進行し、今後、人の心理や行動など社会科学的なデータが加味されれば、これまで看護が挑戦しても効果を上げることが難しかった「予防」の領域で成果を上げる可能性があります。ポストゲノム時代におけるケアの可能性を期待しながら、がんゲノム医療への看護のあり方を議論できる、そのようながん看護の学術集会にできればと思います。

 多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。

第35回日本がん看護学会学術集会
学術集会長 内布 敦子
兵庫県立大学 副学長